初めて人を採用をする社長が最低知っておくべきこと。~就業規則が無くても大丈夫~
労働契約のルール
会社が従業員を採用するときには「労働契約」の締結が必要となります。この労働契約を締結するにあたり、使用者と労働者では、交渉力に差があります。また、契約を口頭で行いますと契約内容が不明確になり誤解も生じやすくなります。
これについて、労働契約法は、以下の規定を定めて、契約内容を相互に確認することにより誤解を減少させ、労使が相互理解の上で労働者が安心・納得して就労できるようにしています。
・労使の対応な立場の合意を明確化(第3条第1項)
・労働者と使用者が就労の実態に応じて均衡を考慮(第3条第2項)
・労働者と使用者が仕事と生活の調和にも配慮(第3条第3項)
・労働者と使用者は信義・誠実に権利を行使し義務を履行(第3条第4項)
・労働者と使用者の権利の濫用を禁止(第3条第5項)
・契約内容の理解を促進(情報の提供等)(第4条第1項)
・契約内容をできる限り書面で確認(第4条第2項)
・労働者の安全への配慮(第5条)
労働契約の期間
労働契約は期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(高度の専門知識等を有する者や満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約にあっては5年)を超える期間について締結してはならないとなっています。
なお、「高度の専門的知識等を有する者」とは、博士の学位を有する者や公認会計士、医師、一級建築士などの国家資格などどされています。
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者は、当分の間、民法628条(当事者の一方的な過失による契約の解除は相手方に損害賠償の責任が生ずる)の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができます。
労働条件の明示
労働条件の明示にあたり、労働基準法では、一定の項目を限定して、「必ず書面により明示しなければならない」と規定していますが労働契約法(第4条第2項)では労働基準法で明示が義務図けられている以外の事項を含めて「できる限り書面により確認するもの」と規定しています。
なお、書面交付による明示は、当然のことですが、正社員のみならず、パートタイマーやアルバイト、嘱託社員、そして有期労働契約(期間の定めのある労働契約)の社員などに対しても必要になります。特に、有期労働契約者は、労働契約が締結された際に、期間満了時において、更新の有無や更新の判断基準等があいまいであるために個別労働紛争が生じていることが少なくないことから、期間の定めのある労働契約について、そのような更新の有無や更新の判断基準等の内容をできる限り書面により確認することが大切です。
労働基準法による絶対的明示事項
必ず明示しなければならない事項。かつ、④の昇給に関する事項を除いて、必ず書面で明示しなければなりません。
①労働契約の期間に関する事項。
②就業の場所及び従事するべき業務に関する事項。
③始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合においては就業時転換に関する事項。
④賃金(退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与及び賞与に準ずる賃金を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項。
⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
労働基準法による相対的明示事項
定めをする場合に明示しなければならない事項。
①退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項。
②臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)賞与及び賞与に準ずる賃金並びに最低賃金額関する事項。
③労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項。
④安全及び衛生に関する事項。
⑤職業訓練に関する事項。
⑥災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項。
⑦表彰及び制裁に関する事項。
⑧休職に関する事項。
厚生労働省のHPに労働条件通知書のモデル様式がありますので、参考にすればよいかと思います。
就業規則の役割
労働契約法(第7条)では、「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」としており、労働契約が成立する場面における労働契約と就業規則との法的関係について規定しています。
これは、労働契約において、労働条件を詳細に定めずに労働者が就職した場合において、「合理的な労働条件が定められている就業規則」であること及び「就業規則を労働者に周知させていた」ことという要件を満たしている場合には、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容を補充し、「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による」という法的効果が生じることを規定したものです。
なお、この条文の「就業規則」には、労働基準法第89条では作成が義務付けられていない常時10人未満の労働者を使用する使用者が作成する就業規則も含まれるものと解されています。また、周知の方法は、労働基準法施行規則に定められた3つの方法に限定されず、実質的に判断されるものとされています。
ただし、労働契約法7条では「ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条(就業規則違反の労働契約)に該当する場合を除き、この限りでない。」として、法的効果が生じるのは、労働契約において詳細に定められていない部分についてであり、「就業規則の内容と異なる労働条件」を合意していた部分については、就業規則の条件を下回るものを除き、その合意が優先することを確認した内容となっています。
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まとめ
初めて人を採用する場合、就業規則が必要ではないかと思われている方も多いと思いますが、就業規則の作成義務は従業員10人以上の事業所です。創業間もないと資金的にもまだきつく就業規則の作成を依頼することが厳しい場合には、絶対的記載事項を満たした、労働条件通知書を交付すれば法律的には問題はありません。ただし、労働条件を書面で交付しない場合にはペナルティーがありますのでご注意してください。
また、人を採用する場合にはいろいろな助成金が受給できる可能性がありますので、助成金を調べることをお薦めします。