痛ましい業務中の事故。企業の責任について再確認!!!
安全配慮義務とは
安全配慮義務とは、企業が労働者に対して負担する「労働者が安全と健康を確保しつつ就業するために必要な配慮をする義務」をいいます。
法律の根拠は以下の通りです。
【労働契約法第5条】(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものととする。
【労働者安全衛生法第3条第1項】(事業者等の責務)
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない
安全配慮義務の範囲
安全配慮義務には、労働契約法から「健康配慮義務」、労働者安全衛生法からは「職場環境配慮義務」が含まれます。つまり、健康診断や労働時間管理をきちんと行い、心と身体の健康に配慮し、さらにハラスメント対策として職場環境をきちんと整えることが義務とされているのです。
安全配慮義務違反となる具体的事例
(1)ハラスメント関連
パワハラ、セクハラ、マタハラなど各種ハラスメントについて被害者から会社の安全配慮義務違反を主張されるケース。
(2)過重労働関連
過重労働、長時間労働による精神疾患や身体疾患の発症、過労自殺、過労死について従業員から会社の安全配慮義務違反を主張されるケース。
(3)労災事故関連
労災事故による負傷、死亡について被災者から会社の安全配慮義務違反を主張されるケース。
(4)下請業者関連
建設業や造船業で下請業者の従業員の労災事故について元請業者が安全配慮義務違反を主張されるケース。
安全配慮義務違反となるポイント
安全配慮義務違反となる視点は、以下の2点です。
・危険な事態や被害の可能性を事前に予見できたかどうか(予見可能性)
・予見できた損害を回避できたかどうか(結果回避性)
安全配慮義務違反とみなされた場合
安全配慮義務違反には罰則が存在しません。ただし、安全配慮義務違反の結果として労働者が負傷したり、病気になったりした場合には、民法上の規定により損害賠償請求が発生する場合があります。
民法415条の債務不履行
民法415条では契約により債務を負っている人が、債務を履行せず相手に損害を与えた場合の損害賠償の義務について定めています。安全配慮義務違反に該当した場合、企業は債務不履行による損害賠償を請求される可能性があるのです。
ただし企業の責めに帰するのが難しい事由の場合、この限りではありません。
民法709条の不法行為責任
民法709条の不法行為責任には、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」という規定があります。
つまり故意や過失により他人の権利を侵害する不法行為を行った者は、被害者に対して不法行為責任を負うのです。
民法715条の使用者責任
民法715条の使用者責任には、以下のような規定があります。
「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者にくわえた損害を賠償する責任を負う。ただし使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」
どのような対策が必要なのか
労働安全衛生法などの労働安全衛生関係法令では、使用者が安全配慮義務を果たすためにとるべき措置が規定されています。施策例を交えながら紹介します。
安全衛生管理体制を整える
事業場の規模に合わせて、安全衛生管理体制を整える必要があります。
職場で労働者の健康に悪影響が出ないよう、作業環境管理を行う衛生管理者や安全衛生推進者の設置は有効な対策です。
現場での作業管理を行う作業主任者、作業責任者も必要です。健康管理を行う産業医、産業保健指導担当者などの配置の有効性も高まっています。
安全衛生教育を実施する
新たに加わった労働者や配置換えをした労働者には、速やかに安全衛生に関する教育を行わなければなりません。労働者が従事する仕事に関する取り扱い事項を十分に伝達します。
実務の手順だけでなく、危険防止策や万が一事故が発生した際の対処法の教育も必要です。
【危険防止】安全装置を設置する
事故やケガの発生する可能性のある場所には、適切な安全装置を設置して危険を防止しなければなりません。
安全装置はハーネスのような機械的なものだけでなく、熱源に対して一定の距離を確保できるような囲いなど、安全確保に有効なものも含まれています。また、それらの整備や点検も必要です。
労災防止の取組事例は以下の通りです。
・整理、整頓、清潔、清掃の4S活動
・危険マップや危険マーカーなどによる職場の危険の洗い出し
・「ヒヤリ・ハット報告」による危険の洗い出し
・危険予知についての研修の実施
【健康配慮】健康診断を実施する
事業者は1年に1回、労働者に健康診断を受けさせる義務があります。深夜業務を含む有害業務に携わる労働者に対しては、配置転換時および半年に1回の健康診断が必要とされています。
【健康配慮】メンタルヘルス対策を実施する
過度な労働や職場の人間関係でストレス過剰になる労働者が増えています。これを受け、2015年には心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施が義務化されました。
労働者の心の健康対策は、現代企業の大きな課題のひとつであり、今後もその重要性は増していきます。
【職場環境配慮】人間関係の改善やハラスメントの撲滅
労働者の精神面の安全や健康を考えるとき、職場の人間関係にも配慮する必要があります。
テレワークの普及により、以前と比べてコミュニケーション不足が問題になっている職場もあります。職場での何気ないコミュニケーションの不足が、人間関係にとって悪影響を及ぼすことを考慮する必要があります。
何気ないコミュニケーションから同僚や部下の「いつもとの違い」に気付けたことも、物理的に離れることで気付きにくくなっています。いつでも相談対応できる体制づくりが求められています。
また、職場におけるハラスメント(嫌がらせ、いじめ)や差別は、職場環境を悪化させます。職場でのハラスメントや差別が労働者のメンタルヘルス不調の原因になることもあります。
ハラスメントや差別の言動が、加害者の故意ではないことも多いです。どのようなことがハラスメントや差別にあたるのかを、研修や教育を通じて労働者に認識させることも防止策となります。
ハラスメントを許さないという姿勢を使用者が発信することも大切です。
【過労死防止】労働時間の管理
長時間労働の是正に対して、国の規制が年々厳しくなっています。まずは、労働時間の実態把握が欠かせません。
その上で、使用者として労働者の労働が法定労働時間を超えないような措置や対策を講じていく必要があります。
長時間労働が常態化している職場には、労働時間を「見える化」する、有給休暇の取得を推進する、管理監督者に対するマネジメント研修の実施など、長時間労働をなくしていく対策が必要です。
海外勤務者に対しての安全配慮義務
企業は海外勤務者に対しての安全配慮義務も負います。海外勤務者に対しての安全配慮義務を3点解説しましょう。
メンタルをサポート
NNAが実施した2019年のアジア各地の日系企業駐在員に対するアンケート調査によると、メンタルケアを目的とした制度がある企業は23%と低調でした。
産業医やカウンセラーを活用しながら、海外勤務者に寄り添ったメンタルサポートのあり方を考えていく必要があります。
赴任前に行う予防接種
海外には、衛生状況がよくなかったり風土病があったりする地域も多くあります。
こうした地域に労働者を派遣する際は、予防接種の実施や現地医療機関との連携、信頼性の高い地域での治療の手配などで、安心して仕事できる体制を整えましょう。
地域の治安や危険性への配慮
現地で緊急事態が発生した際、下記ができるかをあらかじめ確認しておかなければなりません。
・社内に連絡が取れる体制を整備しているか
・警察や消防、病院などとスムーズに連携できるか
・海外の治安や情勢に対して、的確な情報を収集できているか
健康や安全に関する事前研修
外務省では、「海外赴任者のための安全対策小読本」を発行しています。この冊子や社内の海外赴任者用マニュアルなどを活用して、赴任先の海外で健康や安全を守るための研修を事前に行いましょう。
まとめ
安全配慮義務は、社員の心と身体の健康を守り、働きやすい職場環境を形成するものです。社員が健康であれば、仕事に100%力を発揮してくれますし、モチベーションもアップします。その結果、会社の生産性もアップすることにつながっていくのです。
消極的な対応ではなく、積極的な対応をして働きやすい職場環境を形成してみてはいかがでしょう。