最低賃金が上昇する中でのトラックドライバーの賃金体系の見直しについて!!!
トラッドライバーの賃金体系
トラックドライバーの労務管理で一番問題になるのは、長時間労働です。そのためトラックドライバーは労働基準法の他に労働大臣告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)が策定されています。労働時間が長時間となることから、事業者は時間外労働の割増賃金の支払いを抑えるため、基本給の部分を最低賃金にしている事業所が多いのが実態です。代表的な賃金体系は下記の通りです。
①基本給+住宅手当(固定給) + 無事故手当 + 皆勤手当 + 残業手当
②基本給+家族手当(固定給) + 無事故手当 + 残業手当
③基本給(固定給) + 食事手当 + 能率手当 + 無事故手当 + 皆勤手当
④基本給(日給または時間給) + 残業手当 + 歩合給(運行手当または奨励給)
最低賃金の計算方法
【最低賃金の対象となる賃金】
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。
具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。
(1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2) 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3) 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4) 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5) 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
上記賃金体系から最低賃金の対象とならない手当は住宅手当、家族手当、皆勤手当です。
1ヵ月の所定労働時間が170時間。時間外労働は30時間、深夜労働が16時間と仮定すると、①と②の最低賃金の計算方法は以下の通りとなります。
(基本給+無事故手当)÷170時間(1ヵ月の所定労働時間)
無事故手当は算入可能ではあっても事故発生により不支給となったときに最低賃金割れとなる可能性があるので、基本給で最低賃金をクリアしている事業者が多いのが実態です。
昨今、最低賃金が上昇しているため、①②の賃金体系をしている事業者は最低賃金の引き上げによる人件費の負担が事業者の経営を圧迫しています。
最低賃金改正の影響を受けない賃金体系
歩合給を導入したと仮定し、賃金体系を下記の通りと仮定します。
・基本給+歩合給
この場合、歩合給は最低賃金の参入対象となりますので、最低賃金の影響を受けない賃金体系となります。
歩合給の時給の計算方法
1ヵ月の所定労働時間が170時間。時間外労働は30時間、深夜労働が16時間と仮定すると、歩合給の時給の計算方法は以下の通りとなります。
1ヵ月の歩合給の支給総額÷200時間(所定労働時間170時間+時間外労働時間30時間)
歩合給の時間外労働時間の計算方法
時間外労働に対する割増賃金は「時間単価 × 0.25」となります。
また、深夜労働についても「時間単価 × 0.25」となります。
最低賃金の計算例
労働者Dさんは、あるM月の総支給額が203,040円であり、そのうち、固定給が120,700円(ただし、精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を除く。)、歩合給が50,000円、固定給に対する時間外割増賃金が26,625円、固定給に対する深夜割増賃金が2,840円、歩合給に対する時間外割増賃金が1,875円、歩合給に対する深夜割増賃金が1,000円となっていました。なお、Dさんの会社の1年間における1箇月平均所定労働時間は月170時間で、M月の時間外労働は30時間、深夜労働が16時間でした。××県の最低賃金は、時間額850円です。
Dさんの賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは次のように調べます。
(1) 固定給(最低賃金の対象とならない賃金を除いた金額)を1箇月平均所定労働時間で除して時間当たりの金額に換算すると、
120,700円÷170時間=710円
(2) 歩合給(最低賃金の対象とならない賃金を除いた金額)を月間総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算すると、
50,000円÷200時間=250円
(3) 固定給の時間換算額と歩合給の時間換算額を合計し、最低賃金額と比較すると、
710円+250円=960円>850円
となり、最低賃金額以上となっています。
なお、歩合給の時間外割増賃金、深夜割増賃金は「時間単価 × 0.25」となっているため、時間外労働、深夜労働の金額も抑えることができます。
歩合給を導入する注意点!!!
賃金形態を変更するに際しては、『不利益変更』の問題は避けて通ることはできません。賃金制度を変えていく上で、労働者に不利益が生じることになるのであれば、慎重に進める必要があります。各労働者に対する個別合意、もしくは就業規則変更による歩合給導入についても合理的な手続きは踏まなければならないことにはなります。
保障給の設定
総支給額に対する歩合給のポーション(割合)を増やしていくような賃金制度の構築を検討するのであれば、どうしても労働基準法27条に規定される『保障給の設定』の部分は無視できません。
前述の行政通達(平成元年基発93)の考え方でいくと、保障給は『通常の賃金の6割程度』という基準で設定を行う必要があります。
歩合給のベースになる指標と組み合わせて、いくらくらいの時給単価が適切なのかを検討していかなければなりません。また、設定された保障給は制度として就業規則(給与規程)等にきちんと明記(規定化)することが求められます。
完全歩合給の場合、もしくは固定給部分がごくわずかで給与の大部分が歩合給で占められる場合、その月の歩合給の額が結果的に通常賃金の6割上回っていたとしても、保障給の定義を何もしていなければ、上記でご説明した基準法27条に抵触すると考えられますし、揉めた際に就業規則(賃金規程)に明文化されていない額や条件を後付けで設定するのも基準法27条に抵触すると考えられます。『結果オーライ』や『後出しじゃんけん』ではNGだということです。
タクシー業界やトラック運送業において、割と広く普及している『歩合給の中に残業手当の全部又は一部を組込む』という賃金設計の考え方が最高裁判決において違法性ありと判断され、審議が高裁に差し戻されました。今後こういった賃金制度の運用は訴訟リスクが伴うため、吟味及び見直しを推奨致します。
まとめ
トラック運送業、特に長時間労働を常態とする長距離輸送を主たる業務とされている運送業者様は賃金設計を適切に行わないと、今後人件費の高騰や未払残業代の支払リスクが発生することが予想されます。
また、運送業には2024年4月より時間外労働に対して年間960時間の罰則付き上限規制が適用されます。
賃金体系を見直す場合は、専門家の支援を得ながら見直すことを推奨します。