有給休暇の賃金ってどう決めるの?知っておきたい3つの方法
有給休暇の賃金の3つの計算方法
「有給休暇とは、雇い入れ日から6か月以上勤務し、かつ、所定労働日数の8割以上勤務した従業員に付与される休暇です。」
上記の基準は労働基準法上の最低限のルールなので、要件を緩和することは問題ありません。
年次有給休暇の取得日は字のとおり賃金が発生します。
有給休暇取得中の賃金の算出方法は労働基準法第39条9項で3つの方法が決められています。
①所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
②平均賃金
③健康保険法に定める標準報酬日額に相当する金額
部署や従業員ごとに算出方法を変えることはできません(昭和27年9月20日 基発675号)。
賃金の計算方法は就業規則に記載する
年次有給休暇については、就業規則に記載しなければならない絶対的必要記載事項です。よって年次有給休暇の賃金の計算方法も上記計算方法のどの方法を選択するのかを記載する必要があります。
また、計算方法の詳細についても記載することをおすすめします。
通常の賃金とは
企業で一般的に採用されているのが、通常通りの賃金を支払う方法です。通常の出勤をしたものとして扱えば十分であり、計算を行なう必要はない(昭和27年9月20日基発675号)とされており、上記計算方法の①〜③のうち、賃金計算がもっとも簡易的である点がメリットとしてあげられます。
一定期間の賃金制度による計算方法
時間給制の場合 | 時給×所定労働時間 |
日給制の場合 | そのまま |
週給制の場合 | 週給÷当週の所定労働日数 |
月給制の場合 | 月給÷当月の所定労働日数 |
月、週以外の一定期間で賃金が定められている場合 | 上記4つの計算方法に準じて算定 |
出来高払制、その他の請負制の場合 | 賃金算定期間の賃金総額÷賃金算定期間における総労働時間数×1日の平均所定労働時間数 |
上記のうち2つ以上の計算方法を併用する場合 | それぞれの計算方法で算定した金額の合計 |
平均賃金とは
平均賃金の計算方法は労働基準法第12条で決められています。
・直近3カ月間で支払った賃金の総額÷暦日数(休日を含む)
土日祝の休日を計算に含むため、通常の賃金を支給する方法に比べ、従業員に支払う賃金が少なくなることが多いです。
企業は平均賃金の計算が負担となりますが、支払う賃金を抑えられます。
ただし、従業員にとっては受け取る賃金が少なくなるため、モチベーションの低下を招きかねないため注意が必要です。
パート、アルバイトへの対応
パート、アルバイトは労働日数が短いため最低保障額が決められています。
①直近3カ月間で支払った賃金の総額÷暦日数(休日を含む)
②直近3カ月間で支払った賃金の総額÷期間中の労働日数×60%
上記計算式のうち高い方を選択
標準報酬日額に相当する金額
健康保険料の算定に使う「標準報酬月額」を有給休暇中の給与支払いの根拠とすることができます。標準報酬月額とは、健康保険料の計算を簡易にするための仮の月給です。標準報酬月額は、1等級の5万8千円~50等級の139万円までの全50等級に分けられます。
計算方法は以下の通りです。
標準報酬月額÷30(労働基準法施行規則第25条第3項)
すでに計算済みの標準報酬月額を流用し、日割りで計算すればよいため、平均賃金を計算する方法よりも簡単です。
ただし、標準報酬月額には金額の上限が設けられているため、有給休暇中の給与が少なくなるケースがあることから、この計算方法を選択する場合は、従業員との間に労使協定を締結しなければなりません。(労働基準監督署への届出は不要です)
通勤手当の取扱い
有給休暇中も通常の出勤・勤務として取り扱い、通勤手当も支給賃金に含みます。
月給制の従業員に対し前もって定期代を支給している場合、部分的に定期代の払い戻しを鉄道会社から受けることはできないため、通勤手当を削ることは合理的ではありません。
しかし、実際の出勤日に基づき、通勤手当を後払いとする場合は、支給の必要はありません。
皆勤手当の取扱い
皆勤手当を不支給とした事案において、年次有給休暇の付与日を出勤したものとして扱わないことは労働者の休暇取得の妨げになりかねず、年次有給休暇制度の趣旨に反するため違法とした裁判例があります。他方で、皆勤手当の金額によっては不支給としても違法とはいえないとした裁判例もあります。
以上のことから、皆勤手当の取扱いについては専門家と相談されるのがよいかと思います。
日によって労働時間が違う場合の対応は
変形労働時間制を採用している場合や、時間給制のパートタイム労働者等については、年次有給休暇付与日の所定労働時間に応じて賃金を支払うことになります。
日によって所定労働時間が変わってくるため、所定労働時間が比較的長い日に年次有給休暇を取得した方が得であると考え、長時間勤務の日に取得申請が偏るといったことが考えられます。
この場合、有給休暇の賃金を平均賃金で支給すると、支払う賃金を低く抑えられるメリットがありますが、計算は煩雑となります。
フレックスタイム制の場合
労使協定で定めた“標準となる1日の労働時間‘’を労働したものとして扱い、これを年次有給休暇の賃金の算定基準とします。
平均賃金が最低賃金を下回った場合には
平均賃金が最低賃金を下回った場合、最低賃金にするのかですが、有給休暇の賃金についても最低賃金は適用されるため、今回ご紹介した3つの計算方法で有給分の給与を計算した際に、最低賃金よりも下回ってしまった場合、金額を調整するようにしましょう。
もし最低賃金を下回る給与しか支払われなかった場合、1人あたり50万円以下の罰金が課されます。
有給休暇って取得する義務ってあるの
2019年4月、働き方改革関連法が施行され、有給休暇の取得が義務化されました。10日以上の年休が付与されるすべての労働者は、その期間に5日分の有給休暇を取得しなければなりません。
なお、対象労働者が自ら時季指定し、取得した有給休暇も管理し、この日数も含めて年5日以上とします。対象労働者が、朝突然「今日休みます」というのも時季指定の範疇です。会社は、この突然の時季指定でも、事業の正常な運営を妨げる場合以外、拒否することはできません。
企業が必要な措置を取らなかった場合、違反者1人につき30万円以下の罰金が科されます。
労働日数に応じた有給日数表
週所定労働時間 | 週所定労働日数 | 1年の所定労働日数 | 勤務日数 | ||||||
週30時間以上 | 5日以上 | 217日以上 | 6か月 | 1年6ヵ月 | 2年6ヵ月 | 3年6ヵ月 | 4年6ヵ月 | 5年6ヵ月 | 6年6ヵ月 |
週30時間未満 | 5日以上 | 217日以上 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
4日 | 169日~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 | |
3日 | 121日~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | |
2日 | 73日~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 | |
1日 | 48日~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
上表に赤字で示す部分が、10日以上の付与者となります。年10日以上の有給休暇が比例付与されることになり、パートタイム労働者なども年次有給休暇の時季指定の対象になることがわかります。
まとめ
アパート、アルバイトにも有給休暇が付与されることを知らない事業者や労働者は意外に多いです。2019年4月、働き方改革関連法によって10日以上の年休が付与されるすべての労働者は、その期間に5日分の有給休暇を取得しなければならなくなりました。
特に、パート、アルバイトを多く採用されている小売業、飲食業、宿泊業の事業者はパート、アルバイトの有給休暇日数を管理し、計画的に消化させるようにしましょう。
また、年々最低賃金が上昇しているため年次有給休暇の賃金の調整等も十分に注意する必要があります。