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人的資本に関する開示制度。中小企業も例外ではない!!!

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人的資本経営
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資金調達コンサルタント/社会保険労務士 大学卒業後、中小企業支援の志を持って北海道拓殖銀行に入行。融資業務を担当して経営を学ぶ必要性を感じ、行内選抜を経て、日本生産性本部主催、経営コンサルタント養成基礎講座に出向。認定経営コンサルタント資格取得をして銀行に戻るも、経営破綻。中央信託銀行に就職したが、中小企業支援への想いは忘れられず、悶々とした日を過ごす。 その間、社会保険労務士、行政書士、FP1級、宅建士を取得し、独立を意識する。 55歳を機に三井住友信託銀行を退職し、札幌商工会議所の経営指導員を経て独立。 若き入行時の志を現在実行中。

 

人的資本経営

 

なぜ人的資本が注目されているのか

 

事業活動によって公害や環境汚染が起こった場合、その原因となった企業には被害者の方々への賠償責任や原状回復の義務が生じます。そうしたリスクは環境に限らず、社会問題や企業ガバナンスの領域でも同じように発生する可能性があります。従って、企業としてリスクマネジメントを考える上では、それら非財務面のリスクを事前にきちんと把握し、削減に必要なコストを投じる対応をとることが非常に重要です。

1975年におけるアメリカ主要企業の時価総額に及ぼす影響度は、約80%が財務要因で、約15%が非財務要因でした。しかし、2015年には比率がきれいに逆転し、約80%を非財務要因が占めています。さらに2020年には90%にまで上昇しています。

ここでいう非財務要因には、ESG以外の知的財産の評価等の将来、利益を生み出す無形資産も含まれます。また、環境リスクや社会的リスクに対する対応が、投融資において重視されていることは間違いないでしょう。要は投資家が企業を評価する観点が、40年前とは大きく変わり、現在の利益よりも、将来のリスクに移ってきました。

”企業価値”という言葉をよく耳にします。文字通り、その企業全体の価値を示すもので、くだけて言うなら“企業の値段”ということになります。

“値段”ですから、企業価値は基本的にお金で示されることになります。これは事業の価値をはじめ、例えば事業以外の所有不動産などの資産も含めた数字の積み上げで計算されます。こうした数字を「財務情報」と呼びます。

人間に例えるなら、年収や貯金の額、持っているマンションやクルマの価値などを計算するようなイメージです。財務情報は財務諸表などで確かめられる“目に見える数字”です。反対に“目に見えない数字”となるのが「非財務情報」です。

実は今、この非財務情報の開示を求める動きが国際的に強まってきています。

今世界は、環境問題や食糧問題、人権問題、生物多様性など、複雑で多様な課題を抱えています。企業が中長期的な成長を続けていくにはこれらの課題とどう向き合うかが問われており、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の要素を考慮した経営が必須となりました。

逆に言えばESG経営の意識が低い企業は、長期的な成長が期待できない企業であるという見方をされることになります。このESGへの取り組みはまさに目に見えない非財務情報そのもの。企業にとってますます重要な情報となってきています。

人的資本は、財務諸表には記載されない非財務情報かつ、経営資源という面から言えば無形固定資産として位置づけられます。

昨今のビジネス環境の変化を受け、経営戦略などの非財務情報の重要度が高まるとともに、その経営戦略に基づく人材戦略にも投資家の注目が集まっています。また、ESG投資の広がりの中、S(社会)の観点から、企業活動が人材を通じて社会に与える影響を企業価値評価に反映させようという動きも出てきています。

さらに、資本投入の国際比較において、米国や英国では無形固定資産への投資が有形固定資産への投資を上回っており(OECD、2013)、企業の成長に対する無形固定資産投資の影響が高まっていると考えられます。このような中、人材やITなどの企業の無形固定資産への投資が、機関投資家による投資判断の重要な要素になってきています(一般社団法人生命保険協会、2020)。

このような国内外の潮流に加え、ステークホルダーの動向を踏まえると、企業の成長や企業価値を評価する上で、人的資本が欠かせない要素として重視されていくといってよいでしょう。また、同様の視点で語られることの多いIT投資やデジタル化についても、「ソフトウェアとは基本的に人の専門知識がコード化されたもの」(OECD、2013)であり、ソフトウェアを使いこなすのもやはり人であるため、人的資本の重要性に帰結することになります。

 

有価証券報告書での開示義務

 

1.2021年6月に施行された改訂版コーポレートガバナンス・コードで、人的資本の情報開示に関する項目が新たに追加されました(東京証券取引所、2021)。また、人的資本に関する情報開示ガイドライン(ISO30414)の公開(ISO、2018)や、SEC(米国証券取引委員会)における人的資本に関する情報開示のルール化(SEC、2020)など、世界的に人的資本の情報開示に関する動きが活発化しています。

2.令和4年8月30日、内閣官房より「人的資本可視化指針」が発表されました。
本指針によると、人的資本の可視化は以下の方法によって進められることが望ましいとのことです。

(1)可視化において企業・経営者に期待されることを理解する
人材育成や人的資本に関する社内環境整備の方針、目標や指標を検討し、取締役・経営層レベルで密な議論を行った上で自ら明瞭かつロジカルに説明する

(2)人的資本への投資と競争力のつながりの明確化
価値協創ガイダンス、*IIRCフレームワーク等を 活用して明確化する

(3)4つの要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)に沿った開示

(4)開示事項の類型(2類型/独自性・比較可能性)に応じた個別事項の具体的内容の検討

3.「人的資本の可視化の方法」を参考に、有価証券報告書において、人的資本に係る「人材育成方針」、「社内環境整備方針」やこれと整合的で測定可能な指標(インプット、アウトプット、アウトカム等)やその目標、進捗状況等を記載することになっています。

*IIRCとはInternational Integrated Reporting Council(国際統合報告評議会)の略称で、財務資本の提供者が利用可能な情報の改善、効率的に伝達するアプローチ確立等を目指して、2010年にA4S(The Prince’s Accounting for Sustainability Project)とGRI(Global Reporting Initiative)によって設立された、規制者、投資家、企業、基準設定主体、会計専門家及びNGOにより構成される国際的な連合組織です。

 

今後予定されている人的資本に関する開示制度

 

以下の制度の開示が定められた趣旨は法令ごとに異なるりますが、投資家向けに開示される人的資本関連情報と整合的な方針、メッセージになりうるものと思われます。

法令名 開示を求められる内容 開示義務を負う事業主 開示方法
女性活躍推進法 ⑴一般事業主行動計画(計画期間、達成しようとする目標、対策内容及びその実施期間)*₁
⑵次の及び②の情報区分ごとに定める事項*²
①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績
採用した労働者に占める女性労働者の割合、管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合等
②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境に整備に関する実績
男女の継続勤務年数の差異、一か月あたりの平均残業時間、有給休暇取得率
⑴労働者数が100人を超える事業主*³
⑵労働者数が100人を超える事業主(300人超の会社は①②それぞれから1つ以上*² 、101人から300人の会社は①②全体から1つ以上)
インターネット等
労働施策総合推進法 正規雇用労働者の採用者数に占める正規雇用労働者の中途採用者数の割合 労働者数が300を超える会社 インターネット等
育児介護休業法 育児休業の取得状況
(①男性の育児休業等の取得率又は②男性の育児休業等及び出産時育児休業の取得率)*₄
労働者数が1000人を超える事業主 インターネット等
次世帯育成支援対策推進法 一般事業主行動計画
(計画期間、次世代育成支援対策の実施により達成しようとする目標、対策内容及びその実施期間)
労働者数が100人を超える事業主 インターネット等

*₁ 計画を定めるに当たり、採用した労働者に占める女性労働者の割合、管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合等を把握した上で、必要に応じて、派遣労働者に占める女性労働者の割合、男女別の配置の状況、男女の将来の人材育成を目的とした教育訓練の受講の状況、柔軟な働き方に資する制度の実績状況、取得した有給休暇取得率等も把握することが求められる。
*² 労働者が300を超える会社は、2022年7月以降に、男女の賃金差異の公表義務が追加的に課せられる予定。
*³ 常時雇用する労働者を言う。以下も同じ
*₄ 2023年4月1日施行。

 

目標を定めよ

 

現在、人的資本経営と言いうワードがたくさん飛び交っています。人的資本は投資家がその企業に投資をするかの判断材料として重視している指標であることを忘れてはいけません。

投資のスタンスも目先の利益よりも中長期的な利益を重視して投資をするようになってきているといことで、企業の目的である利益を追求することには変わりないことは同じです。それが短期的なものか長期的なものかの違いです。

法律で義務づけられたから、男女の管理職比率を同時水準にするだけでは利益は上げられません。

組織内に多様な人材がいれば、離れた知と知の新しい組み合わせが組織内で多く起こり、新しい知が生まれやすくなります。その結果、イノベーションを生み出し企業の成長ができるため、人材の多様化(ダイバーシティ)を進めることが必要との戦略を描き、男女の管理職比率を同じにするという目標が設定されるのです。

しかし、「なぜダイバーシティが必要か」への理解が乏しく、「男性VS女性」「日本人VS外国人」などの属性だけに頼ったダイバーシティでは、イノベーションは起きにくくなります。

人的資本への投資、環境整備を行う時もなぜそのことが必要なのか、その結果としてどのような企業を目指すのかを明確な目標(KPI)を設定して、進めることが大切なことです。

また、単にKPIを設定するだけでなく、設定の背景や理由を説明することで、社員に対しては人材戦略の説得力を高め、その実現に向けた社員の行動変容につながることが期待でき、人材戦略が経営戦略と連動させることで、企業価値向上につながります。

 

KPIと報酬をリンクさせよ

 

1.KPIは設定するだけでなく、経営環境に合わせて見直しが必要です。見直しを行う場合は、その背景と理由、さらに達成状況を社内外に説明します。

2.人的資本経営の推進のため、経営陣への報酬の一部が人材に関するKPIに連動する制度の導入を検討し、取締役会・報酬委員会と連携させます。

3.現場の管理職にも報酬の一部が人材に関するKPIに連動する制度を導入することを検討することをお薦めします。そのことによって、会社の経営戦略、あるべき姿、会社に何が不足しているかを理解できるからです。

 

まとめ

 

人的資本経営とは、従業員が持つ知識や能力を「資本」とみなして投資の対象とし、持続的な企業価値の向上につなげる新しい経営の在り方です。

現代のように外部環境の変化早い時代に対応し企業価値を高めるためには、人材を「コスト」や「資源」ではなく「投資対象の資本」として捉え、人材の価値を引き出す経営スタイルが不可欠となっています。また、人的資本に関する情報は「企業の将来性を判断する指標」として、投資家などのステークホルダーが情報開示を強く求めています。

中小企業においては、大企業ほど人的資本に関する情報の開示は求められていませんが、上記の記載の通り、制度として開示が求められているものもあります。

しつこいようですが、重要なのは開示義務がある数字なのではなく、企業のあるべき姿を描き、企業に必要な人的資源のKPIを設定することです。

伊藤レポートにも記載されているますが、経営戦略と人材戦略を連動させ、結果として売上を増やさなければ意味がありません。人的資本経営も最終目的は売上を増やす手段であることを認識して導入していきましょう。

 

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