2022年10月から社会保険適用拡大により、パートの働き方が大きく変わる!!
現行の社会保険の被保険者とは
被保険者
厚生年金保険に加入している会社、工場、商店、船舶などの適用事業所に常時使用される70歳未満の方は、国籍や性別、年金の受給の有無にかかわらず、厚生年金保険の被保険者となります。
「常時使用される」とは、雇用契約書の有無などとは関係なく、適用事業所で働き、労務の対償として給与や賃金を受けるという使用関係が常用的であることをいいます。試用期間中でも報酬が支払われる場合は、使用関係が認められることとなります。
パートタイマー・アルバイト等
社会保険は、週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時雇用者(正社員)の4分の3以上であれば、パートタイマー、アルバイトでも加入対象となります。これをいわゆる4分の3要件と言います。
例えば、正社員の週の所定労働時間が40時間の事業所の場合、40時間×3/4=30時間となりますので、週の労働時間が30時間以上のパートタイマー、アルバイトも社会保険の加入対象者となります。
社会保険適用拡大とは
2016年10月から従業員501人以上の企業には短時間労働者に社会保険を適用するすることが義務づけられています。
短時間労働者とは
短時間労働者への待遇などについて定めた「パートタイム労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)」によれば、短時間労働者とは、1週間あたりの労働時間が、同じ事業主に雇用されている通常の労働者の労働時間よりも短い労働者のことをいいます。つまり、パートタイムやアルバイトに限らず、嘱託や契約社員、臨時社員、準社員などでも、通常の労働者よりも短い労働時間であれば短時間労働者とみなされるのです。なお、通常の労働者とは、正規雇用・非正規雇用を問わず、事業所が規定する時間をフルタイム勤務する労働者のことをいいます。
501人以上の従業員のいる企業に社会保険が適用拡大される短時間労働者の要件
以下のすべての要件を満たした者が社会保険の適用対象者となる。
週の所定労働時間が20時間以上である
週20時間の判定は、基本的に契約上の所定労働時間によって行うため、臨時に生じた残業等を含まない
(※) 現行の運用では、実労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、なお引き続くと見込まれる場合には、3か月目から保険加入。
所定内賃金の月額が8.8万円以上である
月8.8万円の判定は、基本給及び諸手当によって行う。ただし、残業代・賞与・臨時的な賃金等を含まない
(※) 判定基準に含まれないものの例:
・ 臨時に支払われる賃金 (結婚手当等)
・1月を超える期間ごとに支払われる賃金 (賞与等)
・ 時間外労働に対して支払われる賃金 、休日労働及び深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金等)
・最低賃金において算入しないことを定める賃金(精皆勤手当、通勤手当及び家族手当)
1年以上の雇用期間が見込まれる
実際の勤務期間にかかわらず、基本的に下記のいずれかに当てはまれば1年以上見込みと扱う
• 就業規則、雇用契約書等その他書面において契約が更新される旨又は更新される場合がある旨が明示されていること
• 同一の事業所において同様の雇用契約に基づき雇用されている者が更新等により1年以上雇用 された実績があること
学生ではない
原則では、大学、高等学校、専修学校、各種学校(修業年限1年以上)の学生は上記の要件を満たしていても社会保険は適用されません。ただし、卒業見込証明書を持っていて就職しており、卒業後もその企業に勤める方や休学中の方、大学や高等学校の夜間学部・定時制に在学している方は社会保険加入の対象となります。
2022年10月からの社会保険適用拡大スケジュール
対象 | 要件 | 2016年10月~ | 2022年10月~ | 2024年10月~ |
事業所 | 事業所の規模 | 常時500人超 | 常時100人超 | 常時50人超 |
短時間労働者 | 労働時間 | 週の労働時間が20時間以上 | 変更なし | 変更なし |
賃金・給与 | 月額88,000円以上 | 変更なし | 変更なし | |
勤務期間 | 雇用期間が1年以上見込まれる | 雇用期間が2か月以上見込まれる | 雇用期間が2か月以上見込まれる | |
適用除外 | 学生でないこと | 変更なし | 変更なし |
法改正後は「雇用期間1年以上見込まれる」が撤廃
現段階では、従業員数500人超規模企業の短時間労働者への保険適用に際しては、「雇用期間1年以上の見込」とされていますが、今回の法改正により撤廃されます。フルタイムなどの従業員と同様、「雇用期間2か月超の見込」が要件となります
社会保険適用拡大の従業員のカウント方法
企業規模要件の「従業員数」は、週労働時間が通常の労働者の3/4以上の者を指し、それ未満のパート労働者を含まない
パート社員30人
フルタイム従業員50人
の場合
・中小企業基本法上の「従業員数」(※パートを含む)⇒ 80人
・被用者保険適用上の企業規模要件における「従業員数」(※パートを含まない)⇒ 50人
いつ時点で適用するのか
月ごとに従業員数をカウントし、直近12か月のうち6か月で基準を上回ったら適用対象となる
(※) 一度適用対象となったら、従業員数が基準を下回っても引き続き適用。ただし被保険者の3/4の同意で対象外となることができる
従業員のカウント単位
従業員数のカウント単位は、法人なら同一の法人番号を有する全事業所単位、個人事業主なら個々の事業所単位で行う。
適用拡大による社会保険に加入する従業員のメリット
・厚生年金保険に加入することで、報酬比例の厚生年金として、将来の年金受給額が増える
・病気やケガの後遺症で生活や仕事などが制限されるようになった場合、障害厚生年金が給付される
・万が一、亡くなった場合は、遺族に遺族厚生年金が支給される
・健康保険では傷病手当金や出産手当金の受給が可能になる
・保険料を会社と自身で折半になるので、現在、国民年金や国民健康保険に加入している一部の人は、保険料が安くなることがある
従業員の中には手取りが少なくなると心配する人もいると思いますが、比例報酬分の年金受給が出来ることや、扶養範囲を超えて働けば収入のアップにつながりますので、メリットのほうが大きいを思われます。
適用拡大による企業への影響
月10万円のパート社員が新たに10人社会保険に加入した場合、北海道の場合企業の負担は、約180万円程度増加します。その際に勤務時間を短くして対応することは可能ですが、小売業、観光産業、飲食業はパート社員が主力なため、勤務時間を短くしても、新たにパート社員を採用しなければならなくなります。
コロナの影響で、飲食業、観光産業は打撃を受けていてとても社会保険料まで負担できないとおっしゃる社長様も多いですが、ここはパート社員の位置付けを長期的な視点で見てどのような働き方をしてもらうのかを検討するよい機会だと思います。
企業の対策
企業のやることは以下の通りです
パート社員の役割を見直す
社会保険料負担を意識した労働時間、職務内容を検討しましょう。キーワードは生産性を上げるです。助成金を使って機械の購入やシステムの導入を積極的に行いましょう。今後、最低賃金は引き上げる方向です。人件費は高くなっていくことが予想されます。人件費が高くなってもやっていけるビジネスモデルを検討しましょう。
社会保険適用対象者を確認する
パートアルバイト従業員の労働条件や労働状況の実態を確認し、適用対象者を洗い出します。
社会保険適用拡大後の社会保険料を算出
適用拡大後の企業負担の社会保険料の算出しましょう。この保険料分が、経営にどの程度影響をもたらすのか把握し、対策を講じる必要があります。
社会保険料の増大のコストを価格転嫁することは容易ではありません。賃下げや賞与の削減、昇給の抑制を行う企業も増えるかもしれません。しかし、コストカットは限界があります。自社の強みをもう一度見直し、新たな分野を開拓し発展していかなければ企業は成長しません。
社会保険対象者本人の意向を確認する
社会保険の適用は、要件に当てはまれば、本人の意思にかかわらず社会保険に加入するのが原則です。中には「配偶者控除内で働きたいので社会保険への加入したくない」と難色を示す従業員がいるかもしれません。社会保険に加入したくない従業員が、適用拡大によって該当する場合、従業員本人にしっかりと説明し、今後の意向を確認しておくべきでしょう。どうしても加入したくないという場合は、加入要件に該当しない労働条件に週の所定労働時間を20時間未満に変更すれば適用から外すことはできますが、その分従業員の収入は減ってしまいます。
また、その代わりに新たな人材を雇用する必要がでてくるかもしれません。新たな採用コストも発生するでしょう。まずは従業員本人とよく話し合うことが必要です。収入を106万円以内まで下げて扶養内で働くのか、それともリミットを外して働くのか、目先の負担でなく長期的な視点で話し合いをしてみてはいかがでしょうか。
雇用管理を徹底する
労働日数や労働時間など、パート・アルバイト従業員の雇用管理を厳格に行わなければなりません。シフト管理や人材確保も社会保険の適用・非適用を踏まえた上での管理が必要になってきます。
適用を受けない短時間のパートアルバイト従業員については、適用の要件に該当しないようにする運用していく必要があります。現場でマネジメントを行なう従業員への教育も必要です。パート・アルバイト従業員が適用要件に該当するにもかかわらず、社会保険の未加入が判明した場合には、遡及して支払いが発生するなど、経営に与えるインパクトは計り知れません。
今のうちに、具体的な雇用管理策を講じておきましょう。
まとめ
年金財政を考えれば今後も社会保険の適用対象者を拡大して行くものと思われます。この機会にパート社員の役割はフルタイム社員の補助との役割から自主的に働く社員との位置付けに変えたらいかがでしょうか。
パート社員だから補助的な役割でいいと思われるかもしれませんが、社会保険の適用拡大、最低賃金の引き上げを勘案すれば、補助的な仕事ではパート社員の人件費を賄えなくなってきます。
働き方改革はこれから第二ステージに移っていきます。同一労働同一賃金、ジョブ型雇用の推進、副業解禁、テレワーク、柔軟な働き方の推奨等を勘案すれば、これから労働条件は就業規則で一括的に縛るのではなく、個別に労働条件を契約して行くものと思われます。3年~5年の雇用環境を勘案して、今から人事管理の対応された方がよいと思います。