試用金期間終了後に解雇できるの!!!
4月に入り新入社員が入社されている企業様が多いと思います。多くの企業様は試用期間を設けていますが、試用期間中の解雇など独自で解釈されている経営者様が多いので、試用期間中の社員の法律的地位について解説したいと思います。
試用期間とは
試用期間は、使用者が労働者を本採用する前に試験的に雇用する期間です。 一般的に、雇用契約の締結前にその企業における労働者の能力や適性を使用者がすべて評価することは極めて難しい。そのため、実際に労働者を採用してから働かせてみて、使用者が労働者の適性を評価・判断するための期間として用いられています。
試用期間の長さ
法律で試用期間の長さは決められていません。期間は一般的には、1ヵ月~6ヵ月で設定している企業が多いですが、あまり長いと合理的な期間を超える部分については公序良俗違反として無効とされる可能性が高いです。
【裁判例】
<ブラザー工業事件,名古屋地裁昭和59年3月23日判決>
企業側は,中途採用制度として,6か月~1年3か月の間,見習社員として雇用し,その後6か月~1年のうちに社内で行う試用社員登用試験を経て試用社員となり,さらにその後,社員登用試験を経て正社員に任用されるという制度を採用していました。
従業員側は,見習社員として雇用された後,試用社員登用試験に合格して試用社員となったものの,その後,2回の社員登用試験に不合格となったところ,企業側から本採用拒否をされました。
そこで従業員側は,「見習社員期間こそが試用期間である。試用期間を見習い期間と言い換えることで,本来の試用期間6か月~1年3か月に加算して6か月~1年の試用期間を設ける労働契約は公序良俗に反して無効である。したがって,自分は既に本採用された地位にあった。そうすると,自分に対する本採用拒否は,試用期間中の本採用拒否ではなく本採用後の解雇ということになるが,この解雇は権利濫用に当たり無効である。」という趣旨の主張をしました。
これに対して裁判所は,従業員側の主張どおり,見習期間こそ試用期間であると認定したうえ,労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行うのに必要な合理的範囲を超えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し,その限りにおいて無効であると解するとの規範を立て,本件についても,少なくとも見習社員から試用社員に登用された後の部分については上記合理的期間を超えているとあてはめました。
試用期間を設定するには
企業は労働者を採用する際に、労働条件(賃金、労働時間、休日、休暇等)を明確にした労働条件通知書を交付しなければなりません。また、試用期間を設ける場合には、その期間の賃金、処遇を記載し、本人への説明が必要です。就業規則にも試用期間中の処遇等を記載しておくとよいでしょう。
試用期間中の解雇はすぐにできるの
企業は労働者を解雇するには、労働基準法で厳しい制限が設けられています。試用期間中の契約は「解約権留保付労働契約」といって、試用期間中は、労働者の職業能力・適性の有無の判断により本採用するかしないかの自由が使用者に留保されています。
通説・判例では、留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由を認めています。
ただし、試用期間中といえども、使用者との間に労働契約が成立している点においては、本採用の場合と変わりがありません。ただ解約権が留保されているにすぎません。
したがって、留保解約権の行使は、解約権行使の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認される場合にのみ許されます。
試用期間中の解雇も、試用期間の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が必要とされるのです。
本採用拒否が認められる理由
本採用拒否は解雇に当たります。なので、合理的な理由が必要です。試用期間は解約権留保契約なので、通常の解雇と全く同じように考えることはできませんが、実際の裁判例では、本採用拒否の場合にも、通常の解雇と同程度に正当性が厳しく判断される傾向にあります。
過去の判例から一般的に認められる本採用拒否の理由
①会社が採用当初知ることができなかった事実を知ったこと
②①の事実に照らし引き続き雇用しておくことが適当でないと判断することが客観的に相当であること
能力不足を理由としている場合以下の点に注意
・採用の際にどの程度の能力を期待していたのか
中途採用の場合、給与が新卒社員より高額であることが多いですので、期待される能力も高いことが証明されますが、逆に中途採用者でも、給与は新卒採用の者と変わらない場合には、能力不足を理由として本採用拒否をすることは難しいです。
・能力不足の程度が重大か
ミスは数回ありますが、会社に重大な損失が生じていなければ、本採用拒否の理由にはならなりません。
・改善の機会を与えていたか
ミスと犯した場合、改善の指導をすることが必要です。指導もしないのに、本採用拒否をすることはできません。
ちなみに、協調性がないの理由だけでは、本採用拒否はできません。
本採用拒否をする場合の注意点
試用期間開始日から14日以内に解雇する場合解雇予告なしに当該労働者を解雇することができます
しかし、14日を超えた場合には企業側は通常解雇と同様の手続きを行う必要があります。通常解雇の手続きとは、「少なくとも30日前に当該労働者に対して解雇予告を行う」「30日前に解雇予告しない場合、解雇までの日数に応じた日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う」というものです。
試用期間中だからといって「もう明日からこなくていいよ」にはなりませんので、注意しましょう。
契約社員に試用期間は設定できるの
民法628条は,「やむを得ない事由」があるときに契約期間中の解除を認めていますが,労契法17条1項は,使用者は,有期労働契約について,やむを得ない事由がある場合でなければ,使用者は契約期間満了までの間に労働者を解雇できない旨規定されています。
労契法17条1項は強行法規ですから,有期労働契約の当事者が民法628条の「やむを得ない事由」がない場合であっても契約期間満了までの間に労働者を解雇できる旨合意したり,就業規則に規定して周知させたとしても,同条項に違反するため無効となり,使用者は民法628条の「やむを得ない事由」がなければ契約期間中に解雇することができません。
試用期間中の処遇について
社会保険等について
試用期間中の社員を社会保険等に加入させない企業様もおりますが、試用期間中でも雇用、健康、労災、厚生年金など、各種社会保険への加入義務となります。使用者は、たとえ試用期間中でも、一定の加入要件を満たしている場合は、雇用保険や健康保険など各種社会保険に当該労働者を加入させる必要があります。
時間外労働(残業や休日出勤)について
残業や休日出勤などの時間外労働を命じること自体は違法ではありません。ただし時間外労働を命じた際、企業には本採用されている労働者と同じように勤務実績に応じた割増賃金を支払う義務が生じます。
有給休暇について
有給休暇については、労働基準法第39条に記載があります。
・6カ月間の継続勤務
・全労働日の8割以上の出勤
以上の要件を満たした労働者に対して会社は、休暇を付与しなければならないのです。
付与条件のひとつ、「6カ月間の継続勤務」には当然、試用期間も含まれます。本採用ではありませんが、労働契約を締結した労働者としての勤務実績を算出期間に含めて有給休暇の日数を導き出す必要があります。
賞与(ボーナス)の査定期間に含まれるか
試用期間がボーナスの査定期間に含まれるか否かについて、法的な基準はありません。試用期間とボーナスの査定との関係性については、個別企業の裁量に任せられています。
トラブル防止のために、試用期間とボーナス支給時期についての詳細を、あらかじめ就業規則などで明示しておくとよいでしょう。
まとめ
試用期間については、法律で定めがある場合と定めがない場合があり、曖昧な部分が多いのが実態です。トラブルを避けるためにも、試用期間中の処遇や本採用する条件等を面談で説明すること。また、就業規則で明確に定めることをお勧めします。