就業規則を作成する意義。労務トラブルを避けるために
就業規則とは
・就業規則とは、労働時間、賃金などの労働条件や、
服務規律などを定めて書面にすることです。
すなわち、社員と会社の約束事を書面することで、
労務トラブルを回避し明るい職場づくりに
寄与します。そして10名以上の従業員を雇用する
場合、「就業規則」の作成を義務つけられています。
従業員10名未満であれば、作成しなくても差し支え
ないとされていますが、労働条件や職場で守るべき
規律を事業主と労働者のトラブルを未然に防ぎ
明るい職場づくりに寄与するため、就業規則は
作成しておくことをお勧めします。
※従業員とはパートタイム労働者、アルバイト
を含めたすべての従業員を言います。
※明るい職場づくりとは
ダニエル・キム(MIT教授)の「組織の成功循環モデル」
🔶バットサイクル🔶 🔶グッドサイクル🔶
1.成果があがらない(結果の質) 1.お互いに尊重し、一緒に考える(関係の質)
2.対立・押しつけ・命令する(関係の質) 2.気づきがある、面白い(思考の質)
3.面白くない、受身で聞くだけ(思考の質) 3.自分で考え、自発的に行動する(行動の質)
4.自発的・積極的に行動しない(行動の質) 4.成果が得られる(結果の質)
5.さらに成果が上がらない(結果の質) 5.信頼関係が高まる(関係の質)
職場の人間関係をよくすると、
思考の質が高まり、行動の質が良くなり、
結果の質が良くなるとの理論です。
職場の人間関係をよくするための働き方を
個別の企業の実情に合わせて作成(就業規則)し、
従業員全員が気持ちよく働く環境を整備することによって、
従業員の思考の質が良くなり、行動にも影響を与え、
業績向上が図られるよい循環を作るために就業規則は
あるのです。
就業規則がないとどのようなリスクがあるのか
令和2年度個別労働関係紛争解決制度施行状況
令和2年度1年間における制度利用状況は下記の通り
①総合労働相談件数 :1,290,782件(前年度比8.6%増)
②民事上の個別労働紛争相談件数 : 278,778件(同0.2%減)
③助言・指導申立受付件数 : 9,130件(同7.3%減)
④あっせん申請受理件数 : 4,255件(同18.0%減)
個別労働関係紛争解決制度は、平成13年10月から施行されているが
、総合労働相談件数は増加傾向がみられる。企業において、個別労働
関係の問題が日常的に発生していることが見て取れます。
また、この他に全国の地方裁判所の令和元年労働関係民事通常訴訟
が、3,678件、労働審判制度の新受件数も3,665件にのぼり、ますます
労働関係に関する問題の発生件数が増加していくものと考えられます。
個別労働関係紛争
次に、個別労働関係紛争の内容を見ていくと、民事上の個別労働紛争相談、
都道府県労働局長による助言・指導、あっせん申請の内容ともに次のような
内容が多くなっています。
①いじめ・いやがらせ
②解雇
③労働条件の引下げ
④自己都合退職
⑤退職勧奨
⑥雇止め
⑦出向・配置転換
⑧その他の労働条件
また、都道府県労働局長による助言・指導に関して見て行くと、
申出人は労働者が99.6%と大半を占める。また、事業所の規模に
ついては中小企業において、個別の労務管理に関する問題が多く
みられるところであります。
その他の労働問題の状況
労務管理に関する問題は、当事者の紛争によってのみ顕在化する
のではなく、監督機関の定期監査及び申告に基づく監督等によって
問題が顕在化することもあります。
監督機関の監督によって顕在化する最も大きな問題は、賃金の
不払残業の問題であります。厚生労働省の発表によれば、令和2年度
の1年間に、全国の労働基準監督署において割増賃金が適正に支払われて
いないために、労働基準法違反として是正を指導し、その結果、1企業
あたり100万円以上の割増賃金が支払われた事案の状況は次のとおり
となっています。
是正企業数は1,062件企業、対象労働者数は65,395人、支払われた
割増賃金の合計額は、69億8614万円であり、企業平均で658万円、
労働者平均で11万円となっています。
このような多額の金銭の支払いが事後的に生ずることになると、
中小・零細企業においては、経営の根幹にかかわる問題となってしまう
おそれもあります。
就業規則の重要性
上記のように、労働者個々の労務管理から生ずる問題が頻繁に発生
する状況においては、円滑な人事労務管理を実現し労務管理のリスク
の軽減を図るためのツールとしての「就業規則」の重要性がますます
増してくるととなることが予想されます。なぜならば、労務問題が
発生したときに、就業規則の規定内容とその運用の実態が、決定的な
判断材料となることが多いからです。
実際に、解雇権の濫用に該当するか否かの判断が行われる場合には、
解雇の合理性の判断基準として「就業規則の解雇事由規程」に該当するか
否かが争点になり、また残業代の未払い問題でも、就業規則における
時間管理のルールの規定や仕方や「定額残業代」等の割増賃金に該当する
賃金に関する規定の有無等が判断の基準になることが一般的であり、
きわめて重要なポイントとなるからです。
労務管理リスクを抑制するための最も基本的なツールが
「就業規則」であるということを十分に認識することが必要です。
就業規則作成・改定のポイント
労働基準法89条は、就業規則の作成届出を義務付けるとともに、
就業規則に記載しておかなければならない事項を定めています。
同上の規定によると「就業規則であれば必ず記載しなければならない
事項(絶対的記載事項)」と「定めがあれば必ず記載しなければならない事項
相対的記載事項)」とに分けられています。
絶対的必要記載事項
①始業就及び就業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に
分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
②賃金(退職手当及び臨時の賃金を除く)の決定、計算及び支払いの方法、
賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③退職に関する事項(解雇の事由を含む)
相対的必要記載事項
①退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、
退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期
に関する事項
②臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額の定めをする場合
においては、これに関する事項
③労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合に
おいては、これに関する事項
④安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
⑤職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
⑥災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、
これに関する事項
⑦表彰及び制裁に関する定めをする場合においては、その種類及び程度
に関する事項
⑧前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される
定めをする場合においては、これに関する事項
以上の事項を就業規則上に、具体的に記載しておくことが重要です。
就業規則作成のポイント
就業規則の内容となるべき職場秩序や労働条件は、業種、業態に
よって異なるほか、個々の企業の形成戦略・人事戦略によって、
企業ごとに決定される性質のものであり、当然のことながら、
就業規則は、各企業の実情に応じて独自のものとして作成される
ことが必要です。
よくみかける例として、他の企業の就業規則や市販の就業規則の
雛形をそのまま使用していることがありますが、このような就業規則
は、多くの場合、企業の労務管理の実態とかけ離れたものとなってしまい、
いざというときに何の役にもたたないものとなってしまいます。
その企業の実態に応じた、労務管理リスクを軽減するための就業規則
を作成するためには、次のような手順をとることが必要です。
①企業で実施している職場規律や労働時間、休日、休暇、賃金等の
労働条件を整理する。
②企業においてこれまでの紛争や疑義が生じた点、あるいは前術の
「個別労働紛争の発生状況」等にかんがみて、規定しておくべき
点を抽出する。
③労働基準法その他の法令に抵触することがないかチェックしたうえで、
できるだけわかりやすい表現の条文を作成する。
適用労働者の範囲
就業規則の作成における留意点のひとつとして「適用労働者の範囲」
をあげることができます。
中小企業においても、正社員のほかにパート社員、嘱託社員等の
非正規雇用労働者といわれる正社員とは異なる労働条件の労働者が
数多く働いています。
このような場合に、正社員の就業規則のみを作成し、「この就業規則
はパート社員、嘱託等には適用しない」として、就業規則を全面的に
適用しないとする例も多々あります。
このような状況においては、適用除外とされた労働者については、
就業規則がまったく定められていないこととなり、労働基準法の規定に
違反するだけでなく、判例においても「場合によっては、適用除外と
された労働者についても就業規則が準用される」とされた例もあり、
リスク管理のためには、雇用契約書を締結するだけではなく、労働
条件の異なる部分についての疑義の生じないように別個に適用除外
とされた労働者に関する就業規則を作成していおくことが必要となります。
就業規則の作成・変更
就業規則の作成手順として、労働基準法は
①労働者代表の意見を聴取すること
②所轄労働基準監督署に届け出ること
③労働者に周知すること
の3つ手続きをとることを定めている
この中で、実務上最も留意すべき点は「③全労働者に周知すること」
ことであります。労働基準法106条第1項においては、就業規則を「常時各作業場
の見やすい場所へ掲示し、または備えつけること、書面を交付することその他の
厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない」
と就業規則の周知をさだめていますが、従来からの判例においては、「就業規則
の効力の発生時期」に関して「労働者が周知しうる状態におかれとき」と
されており、また、労働契約法7条においても「使用者が合理的な労働条件が
定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、
その就業規則で定める労働条件によるものとする。」と規定され、
この手続きがとられていない限り、就業規則の拘束力も生じないとされてしまう
からです。
就業規則の変更
就業規則で労働条件を変更する場合には、労働契約法9条によって、労働者と
合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約
の内容である労働条件を変更することができないこととなっています。
ただし、労働契約法10条によって、就業規則の変更により労働条件を変更する
場合においては、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の
変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後
の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則
の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容
である労働条件は、当該変更の就業規則に定めるところによるものとしています。